たびえもん旅の思い出 何事もない幸せの巻

 もう何十年も前のある夏、私はトルコの片田舎の坂道を登っていました。

 隣を見ると、私と同じく息を切らして登っている地元のご婦人が一人。両手に荷物をぶら下げ、よく見るとお腹が大きい。

 持ちます、と身振りで伝えて荷物を肩代わりして歩く事しばし。最後は坂のてっぺん辺りにあったその人の家に招き入れられました。

 アイランをご馳走になっていると、その人は荷物から子供服を出し、お留守番をしていた女の子の背に当ててサイズを確認していました。すぐ大きくなるしこのくらいが丁度いいわ、とか何とかそれらしきことを言いながら。

 日本でも、いや世界中の家庭で繰り広げられているだろうありふれた光景がフェルメールの絵画のような輝きを放ち、私の目を釘付けにしました。

 幸せって、ごく普通の暮らしが淡々と続いていくこと。目立たないし、当たり前すぎて誰もそれをことさら取り上げないことなのだと思います。

 マスコミが不幸や異常や変異ばかり取り上げたがるのも納得がいきます。当たり前を大切に。平凡は何より尊いですね。(ごっちん)